第3章 知覚心理学
心理学概論
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3-1. 感覚と知覚
3-1-1. 五感と共感覚
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚
感覚を五感に分類したのはアリストテレスが最初
運動感覚、平衡感覚、内臓感覚を加えた8つを感覚と呼ぶこともある
各々の感覚は通常相互に独立している
共感覚: 稀に感覚間で混線が生じる
音を聞くと色を感じたり、形を見ると味を感じたりする
ブーバ・キキ効果
人間は常に適度な感覚刺激にさらされていなければならない
感覚遮断の実験(Heron, 1957)では、五感を極力制限した状態で日数に応じて報酬
わずか数日で耐えられなくなり脱落していった。
3-1-2. 絶対閾と弁別閾
感覚が生じるためにはある一定以上の強さの刺激が必要
絶対閾: 感覚を生じさせるのに必要とされる最小の刺激量
光、音、味、匂い、圧力といったものの存在が50%の確率でわかるという基準
各感覚の最小刺激(Nolen-Hoeksema, et al., 2015)
視覚: 晴れた暗い夜に30マイル(48.28キロメートル)離れたところから見たろうそくの光
聴覚: 静かな状況で20フィート(6.10メートル)離れたところにある時計の進む音
味覚: 2ガロン(7.57リットル)の水の中の茶さじ1杯分の砂糖
嗅覚: 6部屋に相当する容積全体に拡散した一滴の香水
触覚: 1センチメートルの高さから頬に落ちてきた蝿の羽
人間の感覚はいずれもかなり鋭敏
しかし個別の感覚で人間の感覚よりも勝る感度を持つ動物は数多くいる(第6章 比較心理学)
絶対閾は年齢によっても変化する
人間が聞き取れる周波数20~20000ヘルツは歳を重ねるごとに可聴域は狭まる
モスキート音と呼ばれる17000ヘルツの高周波が聞こえるのは20代前半までと言われている
弁別閾(丁度可知差異, jnd: just noticeable difference): 2つの刺激が区別できるのに必要な感覚を生じさせる最小の刺激変化量
50%の確率で違いの存在がわかるという基準
触2点閾: 皮膚上の離れた二点を同時に刺激したときに2つの点が2つの点として50%の確率で感じられる幅がこの場合の弁別閾
ウェーバーの法則: 刺激の弁別閾は、基準となる基礎刺激の強度に比例する
2つの刺激の違いを知覚するには一定の比による違いがなくてはならない
刺激を$ S, 弁別閾を$ \Delta Sとすると$ \frac{\Delta S}{S} = k (kは定数)
kはウェーバー比と呼ばれ、感覚刺激の種類によって異なる
3-1-3. 感覚順応
感覚順応: 感覚はその刺激に接触した直後は敏感だが、同じ刺激に繰り返し触れ続けると、次第に慣れて鈍感になっていく
新奇なものや有意味な変化への敏感性が増すという意味で必要な機能
順応が進んでも興味のある情報への感度は保たれる
カクテル・パーティー効果: 遠くで自分の名前が口にされたりすると突然それが耳に入ってくる
3-1-4. 感覚の脳内地図
感覚器官からの情報は脳に伝達されてはじめて感覚として経験される
カナダの脳外科医ペンフィールドによる実験(Penfield & Rasmussen, 1950)
体性感覚野と呼ばれる脳部位を電極で刺激すると、刺激する場所に応じて患者は身体の特定部位にチクチクとした感覚が生じると報告した。
触覚経験は皮膚ではなく脳で起きている
https://gyazo.com/39c65b326a32ea79794cd9edb5e5e0a3
脳内では身体部位が必ずしも連続的に並んでいるわけではない
身体部位によって脳に占める相対的な大きさに違いが見られる
唇や舌、手の指に対応する脳の領域は胴体や足などに比べてかなり大きく感度が高い
3-2. 心に映し出される世界
3-2-1. 感覚と知覚
ルビンの壺: 壺と向かい合った顔の曖昧図形
壺と顔の両方が同時に図として認識されることはない
図: 見えたもの
地: 背景となっている部分
同じ図形でありながら異なる絵に見えるということは、その絵は外界ではなく私達の心の中にあるということ
見るという行為は視覚から得た情報を受動的に受け入れるのではなく、その情報を主体的・能動的に解釈すること
知覚とは感覚からの情報を解釈し、意味を与える心の働き
3-2-2. 知覚の体制化
図として切り出された対象はさらに有意味な形態として体制化される
ゲシュタルト心理学で群化の法則, プレグナンツの法則:最も単純で安定した形にまとまろうとする傾向
近接の要因、類同の要因、閉合の要因、よい形の要因、よい連続の要因は一つのまとまった形態ないし全体(ゲシュタルト)として知覚されやすい
知覚の際、感覚から入力された情報に一定のパターンを見つけようとする
部分的な要素を取り出してそれだけを個別に認識するということが難しい
ミュラー・リヤー錯視: 線に矢羽がついた錯視図形で外向きの矢羽が就いている図の方が長く見える
エビングハウス錯視: 同じ大きさの2つの円が、大きい円と小さい円に囲まれている場合、小さい円に囲まれたほうが大きく見える
知覚には過去の経験も関与する
経験の要因
3-2-3. 知覚の恒常性
知覚の恒常性: 感覚器官に与えられる物理的刺激の情報が変化しても、知覚される情報は比較的一定に保たれる
大きさの恒常性: 網膜上の大きさが変化しても、対象の実際の大きさは変わっていないと知覚される
形の恒常性: 見る角度によって網膜像が変化しても、知覚される形は歪まない
明るさの恒常性(色の恒常性): 反射する光の量が異なっていても同じ明るさの色に感じられる
同じ対象から得られる客観的、物理的な情報が変化しても、主観的には対象がほぼ同じように知覚されることにより、私達は外界を安定した世界としてとらえることができる。
3-3. 精神物理学
3-3-1. 物の世界と心の世界の関係を探る
感覚や知覚は私達の内的な過程、心の世界で起きていることで、外界の世界がそのまま反映されたものではない
外界から観察不可能な心をいかにして科学的客観的に探求し記述するかという問題
フェヒナー(Gustav FechnerL 1801-1887)
刺激の物理的な特性と、その刺激によって生じる主観的経験(感覚、知覚)との関係を数量で表すことで問題解決の糸口を示そうとした
物理学的手法をモデルとしたことから精神物理学(psychophysics: 心理物理学とも)と呼ばれている
フェヒナーの法則
ウェーバーの法則を土台としていることから、ウェーバー・フェヒナーの法則と呼ばれることもある
ウェーバーが刺激感の関係を示したものであったのに対し、フェヒナーは主観的経験である感覚を式に求めた
感覚量$ Rは刺激強度$ Sの対数に比例する $ R = k \log S  (kは定数)
感覚量を直接的に測定することができないので実験的に検証することは困難
スティーブンス(Stevens, 1957)のマグニチュード推定法: 基準となる刺激を用意し、別に提示する刺激がどれくらいかを参加者に数値で答えさせる
フェヒナーは精神物理学を外的精神物理学と内的精神物理学の2つに分けている
外的精神物理学: 外の世界と心の働きとの対応関係を物理学の方法論を利用して探求する
内的精神物理学: 身体の内側の世界において、生理的な過程と心の働きとの対応関係を探求する
フェヒナーが究極的に目指していたもの
第5章 生理心理学
3-3-2. 心理測定法
フェヒナーはヴントが実験室を開室する1879年より前の1860年に『精神物理学要綱』を著している
このことからこの年を現代心理学の誕生年として挙げる心理学者もいる
フェヒナーの功績は現代の心理学にも見て取ることができ、なかでも心理測定法は当時の基本原理を残したまま今日でも知覚心理学の研究に広く利用されている
調整法: 実験参加者自らが刺激の量を連続的に調整していく方法
例えば、2つの刺激を提示し、一方を標準刺激としたときに他方(比較刺激、変化刺激)をできるだけ標準刺激に近づけるように調整していくことで、主観的等価点(subjective point of equality, PSE)を探していく
pros: 実施が簡単で短時間で終えられる効率の良い方法
cons: 参加者の予想や期待によって結果が左右されやすく、絶対閾や弁別閾などの刺激閾の測定に向かない
極限法: 実験者が刺激量の小さいものから大きいものへ(上昇系列)、もしくは大きいものから小さいものへ(下降系列)と順に刺激を変化させ参加者に応答を求める
視力検査
pros: 刺激閾の測定に適している
cons: 刺激を変化させる方向が単一であるため、調整法と同様参加者の予想が影響しやすく、調整法に比べて時間もかかる
恒常法: 実験者が様々な刺激量の刺激をランダムに提示する
pros: 参加者の予想が最も関与しない。刺激閾の測定に利用できる
cons: 回答のばらつきを最小限に留めるため、一つの刺激を繰り返し提示する必要がある=時間がかかる、疲労の影響や練習の効果が生じてしまうことがある
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